大工さんが、一年の工事の無事を祈って行う「釿始」
この釿という字が入っている大工さんにとって大事な儀式があります。
上の写真は防府天満宮は釿始式の模様です。毎年1月5日に、烏帽子(えぼし)・直垂(ひたたれ)装束の大工の棟梁6人が、宮司らの見守るなかで、ヒノキ材の丸太に大工の七つ道具を使って「切り」「測り」「削り」「仕上げ」といった一連の所作を奉納。その年の工事の安全を祈ります。全国各地の神社で行われている儀式です。
大工さんにとって大事な儀式の名前に入っている「釿」。最近では住宅の工事現場では使われることは少なくなりました。なので、「大工道具の生きた化石」などと呼ばれることも。
石器時代に誕生した、大工道具でもっとも古くからあるといわれている道具
正解は「ちょうな」です。
釿は、手斧とも書きます。つまり斧(おの)の仲間です。石器時代から世界中で使われてきました。身近にある自然木を柄にして、先の鋭い石を植物のツルで結びつけるだけでできる道具だったからです。
やがて写真のように、石は鉄に変わり、柄の部分も曲げて作業しやすい形状に。鋸(ノコギリ)や鉋(カンナ)が出てくるまでには木を切る、木材の表面を加工する道具として重宝されていました。

一般的な住宅で使われることは少なくなりました。しかし、今でも木の家を楽しみたいと考える人たちの間で、木材の表面を独特の味わいに仕上げる、釿を使った「名栗(なぐり)」が人気です。
そんな、歴史のある道具なので、大工さんの仕事始めの儀式で、この漢字を使っているわけです。先ほど紹介した「釿始」は、「ちょうなはじめ」と読みます。
せっかくですから、「大工の七つ道具」とよばれる道具のことも紹介しておきましょう。
釿以外の大工道具で以下の6つです。

・差金(サシガネ)…角度や縮尺を計算して建物を建てるための採寸や計算をする
・玄翁(ゲンノウ)…ノミを叩いたり、クギを打つのに使う
・鉋(カンナ)…木材の表面を削って加工する

・鑿(ノミ)…木材のほぞ穴掘り、削り加工などをする
・鋸(ノコギリ)…木材を切断する

・墨壺、墨刺(スミツボ・スミサシ)…木材に墨をつける道具
最近は電動の工具が増えましたが、昔はこうした道具だけで家を建てていたのです。
旅先で、神社仏閣、古民家を訪れることがあったら、柱や、棚板を触ってみてください。でこぼことした手触りだっとしたら、それはきっと釿の仕事です。
画像/1枚目2枚目は防府市の観光情報ポータルHPより。それ以外はPIXTA(漢字画像を除く)