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【連載】カサ・カルベの家具

1983年にグエル別邸の作図を終え、私は次の作品として「カサ・カルベ」を実測してみようと思った。この作品は1898~1900年、ガウディが初めて手掛けた賃貸集合住宅であり、地階と1階は倉庫と事務所、2階以上が賃貸アパートとして計画されたものだ。住宅という性格を持つことから、もちろん勝手に入ることは許されない。門番がおり、その門番も融通の利かなそうな人であった。

それでもその頃の私はカタルニア工科大学バルセロナ建築学部の大学院生であり、しかも王立ガウディ研究室の者という肩書を持っていたことから、その立場で門番に「オーナーと話がしたい」と伝え、お目通りが叶った。

当時の家主は女性であった。それでガウディ建築の実測・作図をしていることを説明し、是非カサ・カルベも測らせてもらえないだろうかと説明したところ、快く受け入れてくれた。それ以来、ありがたくも気難しい門番の機嫌をとる必要なしに、毎日のように実測のために通うことになった。

居住者の生活の邪魔にならないようにということで、階段室とパティオ、そして屋上階だけの許可であった。それでも裏面にあるテラスに置かれている小さな人工滝も実測させてもらった。

当時、ガウディ研究室には建築許可申請のコピーがあったため、基準階の平面図は確保できていた。断面アイソメ図で見せたいと考えていたのは、特徴的なパティオや階段、そして隣の建物と接する境界壁のガラリ(換気口)であったことから、その作図も含めて作業を進めていた。

カサ・カルベの断面アイソメ図

建物のデザインは、ネオ・ゴシック的でもバロック的でもあるが、ガウディ研究室のホワン・バセゴダ教授(1930 – 2012)は古代ローマの建築様式にも見えるとしている。私はそのファサードを実測していて、ディテールについては時代的な様式よりも、むしろオーナーのアイデンティティを演出したデザインを採用したとみている。

依頼主は繊維製造業に従事していたペレ・マルティ・カルベット(Pere Mártir Calvet)であった。それゆえに、彼の事業である糸巻きの形状を正面の柱に取り入れたり、カルベットの故郷であるビラルサール・デ・ダルトの3人の胸像がファサードの破風に納められているからだ。

この建築計画はサグラダ・ファミリア教会で進められた。

建築許可申請図の作図は助手のフランセスク・ベレンゲールが、10分の1の模型製作は石膏模型職人のベルトランが担当している。

ファサードの模型では、特にトリビューンの部分(2階中央の半円形のところ)は原寸大で制作していたというから、サグラダ・ファミリアと同様の手法を用いて、民間の建築計画も原寸模型をベースにして詳細を詰めたことになる。ガウディ建築の場合、特に彫塑(彫刻と塑像)が多いため、その詳細を明らかにするには作図ではどうしても無理があるということだ。

トリビューンの部分

ガウディの成熟期に計画されたこの作品の中で、彼は家具もデザインしている。カサ・カルベのための家具である。特に肘掛付きの椅子は特殊な形に見える。まるで生きているかのようにも見える足がついている。つまり家具そのものが有機的な存在感を見せているのだ。

グエル公園のベンチを作る時も、ガウディは人間工学的な手法による模型実験からその形状を決めたということは知られている。従ってこのカサ・カルベの家具も同じような工程で作られたことは推察できる。しかもこれらの作品を考案していた頃、サグラダ・ファミリアの誕生の門の彫刻群を手掛けていた時期でもあった。

当時、ガウディは模型作りのためにモデルを三面鏡の前に立たせて写真を撮っていた。その中には美術学校から借りてきた人体の骸骨もあった。三面鏡を使ったのは一枚の写真で3方向から見ることができるようにという配慮であった。当時、写真は現在のようにフイルムも含めて安価でも、撮影も容易ではなかったはずだ。だからつねに工夫を重ねて合理的な手法を用い、デザインしていたということになる。

カサ・カルベの家具

これらの家具は、指物大工の話によると釘なしの家具であるとのこと。つまり組子によってつくられた家具ということができる。バルセロナには、年間の製造数は限られているが、現在も世界で唯一、レプリカを製造しているメーカー「Gabinet Modernista」( http://gabinetmodernista.cat/ )がある。

カサ・カルベはバルセロナ市の拡張地区にあるカスペ通り48番地に位置している。当時、一階ではオーナーの自社製品である生地を販売していたが、現在ではチョコレート屋さんと高級な中華レストランとなっている。

画像/PIXTA(カサ・カルベ外観、立体図画像を除く)

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書き手:田中 裕也

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