殺生石という、恐ろしい石をやっつけた和尚さんの名前!

「玄翁」で検索すると南北朝時代に活躍した「玄翁禅師」というお坊さんの名前が出てきます。
このお坊さんは越後(今の新潟県)の出身。生まれたのは、嘉暦4年(1329年)とありますから、後醍醐天皇の時代。18歳のときに、今も横浜市にある、あの総持寺に入門。その後、曹洞宗の僧として活躍します。

行脚の途中、那須ヶ原(現在の栃木県・那須湯本温泉周辺)を通りかかると、毒気を発して村人や家畜の命を奪う石(殺生石)と遭遇。この石を、ある道具で打ち砕いて退治したという、伝説が残っています。
この「ある道具」が玄翁和尚の名前をとって玄翁といわれるようになったそうです。
石をも砕いてしまった「ある道具」とは、どんなモノなのでしょうか?
玄翁は、木材を傷つけない、やさしい金づちのこと
正解は「げんのう」です。
ハンマーという道具の名前を聞いたことありませんか。
釘を打ったり、石を割ったり、モノをつぶすときによく使う道具です。この頭の部分(槌・つち)が金属のものを「金づち」と言います。そして、木でてきたものが「木づち」です。
玄翁は、この金づちの一種です。
形状は同じなんですが、よく見ると違っていているところがあります。打撃部分の片方が平らで、もう片方がわずかに凸状に膨らんでいるのです。

両面が微妙に違っている理由は、平らな面でノミや釘を打ち、釘打ちの仕上げ段階で、木材の表面を傷つけずに打つためです。凸状のほうで叩くことで、釘の周りを傷つけることなく、釘頭をきれいに打ち込むことができます。
最近は、職人さんだけでなく、DIYをする人たちにも、マストアイテムとして人気。
殺生石を叩き割るというエピソードを知ると、豪快な道具のように思えますが、玄翁は意外と繊細な心配りができる道具なのです。
画像/PIXTA(漢字画像を除く)