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【連載】コロニア・グエル教会の鍛鉄

コロニア・グエルの地下礼拝堂

今回はコロニア・グエルにまつわるガウディの逸話についてのお話です。

実は私はこの建築物を見たことがありませんが、素晴らしクオリティであることに変わりありません。この計画が始まった時点でグエル卿は予算を含め、あらゆる制限を設けませんでしたが、理由が不明のまま未完成で終わった作品だけにグエル家とガウディの謎めいた一面が伺えます。教会の工事中止が決まった時は、地下礼拝堂だけでした。そのためコロニア・グエルの地下礼拝堂とも呼ばれています。(漣)

コロニア・グエル教会の鍛鉄

1983年バルセロナ市内から車で南方に15分ほど向かったところにサンタ・コロマ・デ・セルベジョという町がある。この街にガウディのパトロンであったエウセビオ・グエルの父ホワン・グエルが織物工場を建設するための敷地を購入した。その後息子のエウセビオ・グエルが計画を実現し、織物工場を起業した。当初の労働者は500人ほどであったが、織物ブームの追い風に乗り、しだいに労働者数も1200人に膨れ上がった。

グエル家は、以前からこの場所にカン・ソレールという別荘を持っており、その隣にあった小さな礼拝堂を利用していたが、時折、労働者たちもその礼拝堂を利用していたことと、労働者が増えてきたことで、彼らへの社会的な配慮と改善のために教会をこの団地内に計画することになったのだ。

コロニア・グエル教会地下聖堂 西立面図

1898年グエル家はガウディにコロニア・グエル教会の設計を依頼する。それまで進めていた工業団地は協力者チームが担当してガウディはこの教会の計画に専念することになった。

ガウディは手始めに或る構造実験を始めた。それが Polifunicula(多重フニクラー実験)という名称で呼ばれている構造実験である。日本語にすると「逆さ吊り構造実験」と直訳できるが、専門的には、「カテナリー曲線による構造実験」と言うのがふさわしい。カテナリー曲線とは、放物曲線に関数が加えられる。同じプロポーションで比較してみるとカテナリー曲線の方が若干膨らむというものである。実際には紐曲線またはチェーン曲線と呼ぶべきかもしれないが、そのような曲線を放物曲線から始まりカテナリー曲線という呼び名になっている。

そのカテナリー曲線を提唱したのは、17世紀に活躍したオランダの物理学者クリスチャン・ホイヘンス(Christiaan Huygens )が、天体の軌道の中で見られる楕円運動の中からこのカテナリー曲線を見出したとされている。実際には紐でもチェーンでも両端を支えた時に、自重により等分布荷重の負荷がかかり撓みを生じする姿がカテナリー曲線なのだ。私が学生の頃は、この現象をただの放物曲線として教わっていたが、厳密には放物曲線とカテナリー曲線は異なることをガウディの世界を研究するようになってから気がつき始めた。

コロニア・グエル教会の鍛鉄

さて本題に戻るが、ガウディはこの教会の構造実験のために10年の歳月を費やし、1908年から実際に建築が始まるが、1914年には第一次世界大戦の経済的な煽りから計画が中断となり、未完の教会となってしまう。残念ながら現在は、地下聖堂のみが残っているだけである。

コロニア・グエル教会の格子

この教会におけるガウディのデザインとディテールの中で、最も注目すべき作品は、窓の格子である。と言うのもこの格子を作るために機織り機の針の廃材を利用して格子が作られたという。また通気口の小さな窓の格子もまた面白い。直径75mmほどの鉄パイプを3本利用して小さな窓の格子を設えているのだが、その鉄パイプをまるで柔らかい針金のように、外側に弓のように曲げて利用している。この鉄パイプ自体も、もともとは工場で使わなくなった廃管と思われるが、通常であれば管を曲げずに垂直に立てて利用するところを弓状に利用しているところが実に面白い。

こうすることで自然光をより多く取り入れることもできるし通気にもなるからである。ヨーロッパでは開口部に取付ける格子は、昔から防犯用として一般化してしている。ガウディはこのような細部に至るまで廃材を利用しているのが特徴だ。

コロニア・グエル教会の二人掛け用ベンチ

また、金属を巧みに利用した家具も地下聖堂で見ることができる。二人掛け用ベンチも支持材として利用しているし、出入口のそばに置いてあるシャコガイで作られた聖水器の脚も鍛鉄で作られている。

ガウディ建築に鍛鉄細工が多く見られるのはガウディの父フランシスコガウディによる鋳掛業による影響が、ガウディのDNAにも深く刻み込まれていると言える。ガウディ自身も父の職業を自負するほどであったことから頷ける。

画像/PIXTA(メイン画像、立面図画像を除く)

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書き手:田中 裕也

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