TOP よみもの 連載 【連載】ガウディと部品 田中裕也 【連載 ガウディと部品】グエル公園の破砕タイル

【連載 ガウディと部品】グエル公園の破砕タイル

グエル公園について、田中裕也氏による実測秘話と新たな発見についてのお話です。グエル公園の仕上げに粉砕タイルを使用した理由にも迫ります。

グエル公園の生い立ち(書き手:漣)

今回はグエル公園の作品について、田中裕也氏による実測秘話と新たな発見についての話です。その前にバルセロナを訪れた方であれば、カラフルなトカゲ(ドラゴン)のモニュメントをバックに記念撮影をしたのではないですか。私は思わず、トカゲの置物を買ってしまいました。

田中氏の話の前にグエル公園の生い立ちについて少しだけ説明します。

グエル公園からの景色

バルセロナで工業化が進んできた頃、ガウディとグエルはこの場所に、人々が自然と芸術に囲まれて暮らせる新しい住宅地を作ろうとしました。しかし、この斬新過ぎた発想と自然の中で暮らす価値観は、当時理解されませんでした。広場や道路などのインフラが作られ60軒の住宅が計画されていましたが、実際に売れたのはガウディ本人が購入した住宅と併せて2軒で、この事業は失敗に終わりました。その後市に寄付され、公園として現在に至ります。

グエル公園の破砕タイル

グエル公園のスケッチ

グエル公園の本格的な実測を始めたのは1978年からだ。その年にバルセロナに来たばかりの私は、当初どのようにガウディ研究を進めれば良いか悩み抜いていた。 日課のようにこの公園に通って、丘の上から漫然と地中海を眺める日が続いていた。少年期を過ごした故郷の北海道・稚内で見ていたオホーツク海の水平線が原風景となって甦る。「あの水平線の向こうには、未だ見たことが無い外国がある。」と、夢と不安を馳せながら少年期を過ごしていた時の記憶である。

あの記憶から時は巡り、英語もスペイン語も話せない自分が、今は目の前にあり、手が届きかけているガウディ建築作品とどのように向き合えば良いか、また何故このような運命を辿ることになったのかと、自問自答を繰り返しながら、自分を奮い立たせようともがいていた。それは私がちょうど25歳の時のことである。

それから3カ月ほど経った或る日のこと、今自分が座っている公園の階段なら、デッサンと実測をすることができるのではないかとふと閃いた。ようやく一筋の光明が差し込んだ瞬間だった。

それから今日まで、デッサンと実測をただがむしゃらに進めてきた。誰の指示もなく、支えもなく、ただガウディを知りたいという好奇心が私自身を揺り動かしたのだ。

最初の頃は、階段をスケッチし、実測し、写真を撮って宿に戻り、その実測内容の整理をしていた。

もし建築家になるのなら絵を描く訓練も必要であると、建築学生時代に先生達から聞かされていたが、絵画の世界や美術の世界は、自分にとっては子供の頃から持ち続けていたコンプレックスだった。

グエル公園の実測をすると決断した日から、毎日のようにデッサンと実測を続けてみると、徐々にスケッチ方法や寸法の入れ方、さらにスケッチの全体構成まで考えられるようになり、自分の才能が覚醒していったように思えた。 或る時は建物にへばり付き、また或る時は地べたに這いつくばりながら実測を繰り返す作業を繰り返すうちに、少しずつではあるが、ガウディの設計意図だけではなく、ガウディの心の奥底、つまり「真我(しんが)」に近づいていけた。

グエル公園

グエル公園には、階段の他に代表的な仕上げとして「破砕タイル」がある。カタルニア州においては、ギリシャやローマ時代から伝わる「トレンカディス」として伝統的な手法である。

それは規則的な形によるモザイク・タイルのような仕上げ方とは少々違っている。素材が三角状に砕かれていて、セラミックだけではなくガラスや石なども利用されているのだ。つまり廃材も利用することで「破砕タイル」という呼び方をする。

私がそれまで抱いていた絵画や美術への コンプレックスは、スケッチと実測を重ねることで次第に消え失せ、自分の思いを描くことに楽しさを覚えるようになった。 現在はその時間は私にとって貴重な瞑想の時間となっている。

1990年からは、本格的にスペイン語の原書を翻訳し始めた。ガウディの日記から始まり、伝記なども含めて12冊以上の本を全訳してきた。その多くは転写も含めての全訳であった。 おかげで作図以外のガウディの行動、作業、関係者との会話なども理解できるようになり、さらにガウディの「真我」を理解できるようになり、ガウディ・コードの発見につながったのである。それは自分の中での悦びであり、自負である。

グエル公園の管理事務所

最後にガウディはグエル公園の建物の仕上げを何故破砕タイルにしたのかという説明を加えたい。表面仕上げとして雨や湿気を遮断するための仕上げである事は、既にギリシャやローマ時代から知られていた。またその手法は現代まで受け継がれ、多くの技術者たちも十分理解している。

ところがガウディの破砕タイルに関しては、少々その意味が異なっている。それは曲面となっているところを破砕タイルによって防水加工している点である。つまり平滑面では破砕の必要性はなく通常のタイルを利用すれば良いだけのことなのである。これもガウディ・コードの技巧のひとつである。

画像/PIXTA(メイン画像、2枚目)

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書き手:田中 裕也

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