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【連載 ガウディと部品】カサ・ミラの階段室

ガウディの代表作「カサ・ミラ」を訪れた方は多いと思います。バルセロナ中心部のグラシア通りに面する建物は、ひと際異彩を放っています。ガウディは、建築を生き物だと考え、カサ・ミラは山の形をモデルに設計されたと言われています。

バルセロナの地図
カサ・ミラの外観

そのため、完成直後は、この建築はカタルーニャのゴツゴツとした岩山のようだと、市民から採石場のような無機質な雰囲気から批判を受けることもありました。1984年にはユネスコ世界遺産に登録され、街のランドマークとなって、市民や世界中の観光客に愛されています。

カサ・ミラの中心部は屋根が無く、大きな吹き抜けになっています。この吹き抜けによって、太陽光が室内に多く入り、住む人が心地よく過ごせる建築となっています。太陽も自然の一部。その自然を建築の中に取り込んだパッシブデザインはガウディが建築を生き物と捉えているわかりやすい凡例です。しかし、カサ・ミラには、設計段階において、世間をあっといわせるようなガウディの斬新なアイデアが隠されていました。建築過程で様々な葛藤の末に完成した建物であったことは、あまり知られていません。第3回目はガウディ建築の実測家で知られる田中裕也氏が、カサ・ミラの実測を通じて、パティオと階段室から導いた同建築の知らざる話題をお届けします。

「カサ・ミラの階段室」 実測家・建築家 田中裕也

境界壁側の小さなパティオに沿って設置された階段は、どことなくツイストしているように見える。 当初の計画ではパティオに露出させる予定だったので、そのまま実施されていればパティオの雰囲気が現在のものとは大きく異なっていたはずである。

しかも建築された時期は、産業革命以後半世紀も待たずに、移動手段が馬車から車に変わったタイミングと同時代である。そうしたイノベーションと時代の進化を、 ガウディ自身が社会の動向としてしっかり見定め、 建築における革新的な技術開発を、自然な流れだと受け取って建築計画の中に織り込んだ。真に時代を超越したガウディの想像力が成せる偉業である。

カサ・ミラの内部

カサ・ミラの階段室は、その境界壁にある小さなパティオに沿ってのみ最上階まで上がれるが、当初計画の原書を紐解いていくと、その他に円形パティオとトラック形に沿った階段が当初はあったことがわかる。実際には当時のオーナーであったペドロ・ミラ・カンポの住宅へのアクセスとして、パティオに面した階段となっている。

ところがこの計画以前の段階では、我々の想像を遥かに超えた驚愕の計画が秘められていた。 それは、パティオに沿って自動車で最上階まで上がれることを想定していたのだ。

つまり各階の住戸まで、それぞれのパティオに沿って斜路が設けられ、直接車でアクセスできるというのだ。確かに当時カサ・ミラの住民たちは上流階級の中でも選りすぐりの事業家たちであったことは理解できる。中でも事業家フェリウという住人は、当時開発されたばかりのロールスロイスの自動車を持っていたというのだから頷ける。 それでなくても、当時馬車を所有する人たちは、バルセロナの中でも玄関の入り口を大きく構えていた。つまり馬車で建物の内部のパティオまで乗りつけることができる造りになっていたのである。建物のファサードに大きな入り口が設えられ、奥にパティを設けているところは上流階級の住む住宅のシンボルになっていた。

そのような時代背景を受けてガウディは、カサ・ミラをビルとして計画し、各階に350㎡から400㎡の占有面積の住宅を4戸納まるように計画した。つまりガウディは 住宅付きパーキングビルとしての斬新なビル計画をしていたことになる。

カサ・ミラ 模型

しかしながら実際には、その自動車斜路計画も螺旋状の蛇行階段計画もパティオに面する一部にその形跡を残してキャンセルし、現在の姿に落ち着くことになった。そして壮大なパーキングビルの計画に取って代わったのが、上下のアクセスに便利なエレベーターであった。

バルセロナにエレベーターが初めて登場したのが1891年と言われている。その後10年を待たずにガウディの作品にちょくちょく採用されるようなった。しかもエレベーター・ボックスは木とガラスで構成され、ボックス内部にはベンチまで付いている。

利用できる新たな手段があれば理想的な解決法として大胆に受け入れていたのが、ガウディの設計思想であったことは間違いないところだが、その一方で装飾的な部分とされる部分においては細心の配慮を払っていた。ガウディが時代を切り拓いた歴史的作家たる所以でもある。

ガウディの建築コンセプトとする装飾の扱い方について、本人の日誌に「無駄なものはつけないというのが装飾コンセプトである。」と書かれている。

つまりガウディのシンプルな創作性が、この階段の演出にも影響を与えている言っても過言ではない。

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書き手:田中 裕也

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