TOP よみもの 連載 【連載】ガウディと部品 田中裕也 【連載】カサ・バトリョのバルコニー

【連載】カサ・バトリョのバルコニー

カサ・バトリョのバルコニー

私が初めてカサ・バトリョのファサードを見た時は、色彩の豊さと美しい装飾建築に圧倒され、強く印象に残った。その後、この素晴らしい装飾建築を私自身が実測・作図することになるとは、当時は全く予想だにしなかった。

1978年の秋頃からだったと思うが、ガウディ研究室からの勧めもあっていよいよ実測を始めることにした。ちょうどグエル公園の階段を実測していた時期と重なったが、ガウディの階段くらいならそれほど時間はかからないだろうという軽い気持ちでその作業をすることにした。

階段の実測に没頭しているうちに内部空間との奥深い関わり合いが読み取れるようになっていった。さらにパティオ内部の階段をアイソメ図にしてしまったものだから、一見趣味とも受け取れる作業は、とうに1年半の歳月を費やしてしまった。

それからおよそ10年が経過し、スペイン語も次第に理解できるようになったので原書の熟読と翻訳を始めるようになった。

そこで出会った原書とは、1929年にガウディの協力者であった建築家ラフォルスの執筆した「Gaudí」(ガウディ)という本だった。

最初はがむしゃらに繰り返し手写本を行った。当時ガウディ研究室のバセゴダ教授が、必死に作業する私を見るに見かねたのか「ヒロヤ(裕也)君は何をしているのか。」と尋ねてきたことがあった。「手写本をしているのです。」と返事をしたのだが、研究室にはすでにコピー機もあったからこその教授の心配だったのだろう。「手写本をすることで多くのスペイン語に触れ、覚えることができる。」という返事をして納得していただいた。

作業に没頭しながらも時には、ガウディの日記にも目を通していた。中でもガウディが「装飾」というタイトルで書いた文章に目が留まった。

「装飾に関心を持つには、詩的アイデアを想起させなければならない。目的は歴史的、伝説的、躍動的、象徴的、人間の生活における寓話、躍動と受難などである。そして自然を尊重し、動物王国、植物、地形を表現することもできる。また体の形態、表面、ライン、それら全ての構成における幾何学そして美学の本質であり、コントラストは、プロポ−ションの為に役立つ。物が非常に美しくあるためには、その形が余分な物であってはならない。」という文章だった。

ガウディの考える「装飾」とは、私たちが思い込んでいた「装飾」とは次元が異なる。単に装飾という言葉だけでは言い表せないほど奥深い意味があることを示唆している。

カサ・バトリョのファサード

カサ・バトリョのファサード

そこでガウディ・コードを解き明かすキーワードの出番となる。まずカサ・バトリョのバルコニーはこれまでの通常のバルコニーという定義ではないことは一目でわかる。

2つ目、3つ目のバルコニー、まるで爬虫類の顔を想起させるような姿だ。まさかガウディはカーニバル想定しての仮面をデザインしたわけではないはずだ。つまり2つ目のバルコニーは7つ、そして3つ目のバルコニーは1つ、つまり7 + 1という法則を意識してバルコニーが配置されている。

それにしても中央上部の2箇所だけバルコニーがつけられていないのが気になった。カソリックの世界に関わるモチーフとしてこのバルコニーを演出しているとするとすれば、7という数字から聖書の一文を回想する。黙示録には「7つの頭を持ったドラゴン」が登場するのだ。

では3つ目はどのように説明するのだろうか。3つ目のバルコニーは隣のカサ・アマジェという作品の境目にあり、その作品の手すりの高さにレベルを合わせている。しかもガウディはその当時、施行中に隣の家を尊重しながらファサードにも変更を加えていたのである。

このような一連の出来事を踏まえテラス付きのバルコニーとしてアレンジを加えることになり、、小塔をつけ加えて、本来のファサードにデザインを変更したのだ。

つまり3つ目は、ドラゴンではなく、ガウディその人という洞察をしてみた。

この記事について問い合わせる

書き手:田中 裕也

あわせて読みたい